この日は夜に日本大使館でレセブションパーティーと、その後はトモジのバースデー前夜祭がある以外は予定がなく、基本はオフ。

昼前に起きて一馬とトモジと3人でホテル近くのカフェでランチ。
オムレツを食べるが、こちらでは基本卵を3つ使うらしく、すごいボリューム。味はNYの味付けに慣れたのか旨かった。


その後、3人でタクシーで南下しSOHO地区にいく。目的はANNEX NYというところで催されている「ROCK & ROLL HALL OF FAME」というロック博物館みたいなものを見に行く事。今の時期はジョンレノン展も併設されている。
ロック博物館と言われてもピンとこないと思うが、これが実に良かった。ロックは余り興味を持った事が無かったが、さすがエンターテイメント大国アメリカ。見せ方、聴かせ方が素晴らしい。
会場に入ると狭い部屋に10分待機しろとの事。そこには壁一面にロックの殿堂に入った人のサインプレートがあり、今かかっている曲を演奏した人の名前が光る。バンドならバンド全員の名前が光って面白い。
ロックの殿堂とは言ってもその人選は多様でボブマーリーやアレサフランクリン、ビリーホリデーやBBキングなんかもいて、音楽のジャンルより功績を重視した印象。
時間が経つと徐々に曲間が短くなり、最後は1小節ごとに曲が変わる位になり、部屋中のプレートが高速で点滅しはじめ、やがて轟音と共に真っ暗闇になる。さすがウマい演出。いきなりロックな世界観に引き込まれる。
その後、案内されて巨大なスクリーンのある映画館みたいな場所に座らされる。これも凄かった。ロックの誕生と発展の歴史を迫力のライブ映像と共に体感する訳だが、実際にライブを見ている様な錯覚に陥る位の臨場感。大げさでなく本当にそうなのだ。だってスクリーンのライブ映像に映る観客席に、口をあけて笑ってる俺の映像がはめ込み画像で映るという凄い演出まであったのだ。どこまでも手抜きの無い演出。楽しませる事に本気。素晴らしい。

その後は展示されたスターのお宝を鑑賞。ジミヘンのギターとかJBのガウンとかリンゴスターのバスドラムのヘッドとか。でもお宝にはあまり感動は無かったな。やっぱりスターの残した最大の宝は音楽だから。

展示を抜けるといよいよジョンレノン展。ジョンとヨーコの貴重な映像やお宝がたくさん展示されている。一番ぐっときたのはジョンが撃たれた時に血が着いたメガネをダコタハウスの部屋の窓でヨーコが撮影した写真。血の着いたメガネ越しにNYの街並みが映る。他のジョンとヨーコの展示物からも感じたが、2人の愛は振り切れていると感じた。撃たれた恋人の血の着いたメガネを撮影しようって心理は凄い。

ジョンレノン展でのメッセージはやはり平和な世界をというもので、最後がそれで終わるという意味でも、このロック博物館は素晴らしいものだったと思う。


その感動の余韻に浸りつつ、ロック博物館を後にして徒歩でイーストビレッジへ向かう。
この辺りは日本でいう下北沢や高円寺みたいな感じの街。タトゥーショップやパイプ屋、レコードショップなど、胡散臭い店がひしめき合っている。結局みんな何も買わずにホテルへ戻る。

そしていよいよ大使館へ。俺が大使館に来るなんて!お偉方とのフォーマルなパーティーに緊張してしまう。緊張からか最初にワインをガブガブ呑み過ぎてちょっと気分悪くなる。
2時間ほどでパーティーは終了。次はいよいよトモジのバースデー前夜祭だ。

今回の旅で一馬とトモジと本当に仲良くなれた気がする。出発前に一緒に1枚アルバムを作った事もあったが、更に打ち解けて家族の様な絆と信頼を感じる。2人とも心がピュアで優しい。とても大切な仲間だ。

そんな仲間のバースデーという事もあって、バンド、スタッフみんなでお祝い。
場所はシバケイセレクトの地中海料理レストラン。とても雰囲気が良く、味も素晴らしい。
明日が誕生日なので明日、何かプレゼントしようと思っていたが、スタッフはみんなトモジにプレゼントを用意していた。
どうしても今、みんなと一緒にプレゼントしたくなった俺は煙草を吸いに行くと言って外へ。

ここからプチ冒険だった。見知らぬ街で何を見つけられるか。とりあえず道端にいた怪しい兄ちゃんに花屋を教えてもらいダッシュ。花屋と聞いたのにスーパーみたいな店だった。だが花は売っている。なんとか花束にして欲しいと伝え、見た目はイマイチなひまわりの花束をゲットしダッシュで戻る。所要時間10分。冒険は成功。戻ったらトモジは泣いて喜んでくれた。俺も嬉しかった。

その後は皆でvillage undergroundという店に移動。ここではopen micといって飛び入りのセッションをやっている。もちろん飛び入りしたいと名前を記入する。

しばらくしてコールされ、ステージに向かうがスティックが無い。予定してなかったので準備してなかったのだ。
誰かに借りたいと思い頼んだが誰も貸してくれない。更にはベースの奴がスティック無いなら帰れとか言ってる。なんて冷たい奴らだ。
だがこちらの気持ちが通じて1人のドラマーがスティックを貸してくれた。なんとか演奏出来る状態になりいざセッション。
だがさっきのベーシストはまだ怒ってる。あげく何やらこちらに向かって叫びながら叩く内容にまで口出ししてきた。
カチンときた俺は「俺は今、一期一会な音楽をやってるのに何でお前はそんなに心閉じてるんだ!俺のスタイルで一緒にやりたくないならお前がステージ降りろ!」とそのベーシストに俺もどなりかえす。英語はグダグダで伝わったかは不明。
結局2曲やったが、そいつとは相容れないまま終わった。本当に残念だった。
まぁ、彼らにしてみたらハローワーク状態な訳で、その事情もあるんだろうけど、異国からきた音楽家との出会いにそりゃないぜと思った。

まぁ、その場の流儀というか、そういうのはあるんだろうけど、日本人だからって馬鹿にすんなよと思ったし、同じ黒人でもニュージャージーの教会で会ったベーシストの方が人間も演奏もずっと素晴らしかったから。
なんだか後味悪いまま店を後にしてホテルへ戻ったが、悔しさと悲しさで部屋で泣きちらす。
一馬が心配して電話してきてくれた。本当にいいやつ。

そんなこんなでこの日は終了。